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なぜ、今インドなのか?
Dec 01, 2005 | 特別寄稿

現在のインドを紹介するのに、ベストな記事を入手いたしました。
現在ニューデリー在住の大手商社駐在員のパーティでのスピーチの原稿です。ここにご紹介いたしますので、ぜひ参考にしてください。


なぜ、今インドなのか?
                 

大変僭越ではございますが、実際にインドでのビジネスの第一線にいる者が日ごろから感じていることを簡単にお話ししたいと思っております。
ここにおられる多くの方々が、昨晩当地に到着されたばかりである事と、これからの全体会議などで多くの経済指標とか資料が渡されることを考えまして、ここでは、いくつかの「Key Word」を使って最近のインドの経済情勢についてわかりやすくお話を致します。
おいしいインドの紅茶と私の話で今日これからの長い会議への準備ができれば幸いでございます。

(1) インドは旧EUと同じ?
インドの主要都市間はほとんどが飛行機で2時間前後の距離です。デリー/ボンベイ、デリー/カルカッタ、ボンベイ/カルカッタなどです。デリー/バンガロールでさえも2時間を少し超えるくらいです。
インドの国土は、旧EUの大きさとほぼ同じです。日本の8−9倍の広さに、同じく8−9倍の人口をかかえております。
旧EUと同じというのは広さだけではありません。オランダやイギリスやフランスなどのEU諸国では、民族/言葉/文化/習慣が異なっているように、インドの各州でも大きくそれらが異なっています。つまり、「インド連邦」という言葉があてはまるほどの多様性を持った州の集合体が今のインドであることを理解しておく必要があります。
したがって、どこの州に進出すべきなのか、どの州と商売をやろうかということは、EU諸国の内でどの国を相手にするのかを検討するのと同じように重要であります。そのくらい、各州によって状況が異なるということを、まずはアタマの中に入れておく必要があります。

(2) インドの政治的リスクはゼロ!
「投資」ということを考える場合に、その国の政治的なリスクがどのくらいあるのか?ということは、極めて重要な要素でしょう。
インドの政治的リスクは限りなくゼロに近いといっても過言ではないと思います。この春のBJPからCONGRESSへの政権移譲は、正に、平和的・民主的に行われ、一切の政治的な混乱も空白もありませんでした。
日本で言えば、自民党から民主党へ政権が変わったのと等しいです。これだけ、「民主的」な政権移譲が可狽ネ国はアジアでは日本とインドだけといってもよいくらいに立派なものでした。
負けたBJPのバジパイ前首相が「これで、インドの民主主義の偉大さを世界に伝えることができた」との演説をしましたが、決して負け惜しみではない、格調高い演説でした。

この国は「法治国家」であり、お隣の「人治国家」とは大きく異なります。
たしかに、過去にも我々日本企業を狙い撃ちしたような税金問題は起こりました。かなりの追加の税金を払わされましたが、その後の国との裁判で勝訴して、一部を取り戻したりした会社もあります。しかも、その間の金利付で返金されております。
このようなことは、お隣ではとても不可狽ネ話だと理解しております。

日系企業のインドへの投資の促進は等しくインド政府高官の望む所であり、インド側の日本への不満の一つに、なかなか増えてこない日本からの投資という問題があります。
一方、日系企業の側からすれば、よくわからない税金システムと社会主義時代の名残ともいえる労働法があります。特に後者は簡単に従業員をクビにできないという点において、日系企業にとって、かなり厳しい足かせになっている場合がよくあります。
特に今回の選挙結果を受けて、Congressは共産党などの左翼政党と連立を組んだ関係上、この問題には突っ込みずらい状況にあることは否定できません。

因みに今回の連立政権によって、我々の経済活動において、大きく影響を受けつつある経済政策は「黒字の国営企業の民営化が遅れている」ということくらいだと思っております。
BJPからCONGRESSへ政権が変わっても、このように大きな経済政策の違いはないということです。それだけ社会が安定していることだと思います。
 
(3) インドは純債権国の仲間入り
インドの外貨準備高は10月1日現在で1,137億ドルに達しました。これは日本・中国・台湾・韓国に続いて世界第5位です。
6月末現在の対外債務は1,126億ドルですから、差し引き11億ドルの純債権国になったわけです。
因みに、この1,126億ドルの債務の内で、短期債務はわずか5%程度です。

(4) インドと日本の間には「歴史的問題」が過去に全くない
インド人がおしなべて親日的なことはほとんどの在留邦人が認めることだと思いますが、それもそのはずで、第2次世界大戦を含めて日本とインドの間にはいわゆる歴史問題は皆無であります。
それよりも、極東裁判において、この裁判自体の国際法上の違法性を訴えてくれたパール判事も、ノーベル賞受賞である詩人のタゴール氏も、チャンドラボースも全て西ベンガル州出身のインド人であります。特にカルカッタ地区で親日的な人たちが多いことと、このことは関係しているのかもしれません。

皆様のように中国をよくご存知の方々からお聞きする言葉に、「中国にいると疲れる」というのがあります。インドにいると「ほっとする」というのとは好対照であります。
9月8日のカルカッタでのW杯サッカー代浮応援に行きましたが、その直前に日本代父`ームが、重慶と済南のアジアカップで味わった中国での悪い思い出とは、180度異なる友好的な雰囲気の中で試合が行われました。
余談ではありますが、試合途中で40分ほど停電となってしまい、試合の進行が遅れました。しかし、その状況をつぶさに見ておりましたが、これこそインドだなと思ったことばかりでした。それは、10万人近い観衆が全く騒がずに、静かに待っていたこと(停電慣れか?)、さらに、この停電がなぜかハーフタイムにあって、試合そのものに深刻な影響を与えることがなかったことです。(単なる偶然か?)
インド人の鷹揚さとインドの国としての運の強さのようなものを感じました。因みに停電の原因は発電機にねずみが巻き込まれたというこれまたいかにもインド的なものでした。
尚、試合前日にインドの有力紙の取材を受けて、明日の試合についてのコメントを求められました。これに対して、私からは、「先のアジアカップで中国の複数の都市で国歌斉唱の際にもブーイングをされ、最後の首都北京の試合では中国が日本に負けたこともあって、日本公使の車が破壊されてしまった。明日のインドとの試合ではこのようなことは一切起こらずに、非常に友好的な雰囲気の中で試合が行われると思っている。試合結果は時の運としても、友好的な雰囲気の中で試合が行われることを強く望むし、そのように信じている」とのコメントを述べさせてもらいました。
翌日のその新聞に極めて正確に私の談話が載っておりました。

その国と商売をやる時もましてや投資を考える際には、その国が親日的であるか否かは非常に重要な要素だと思います。その点からもインドが中国とは比較にならない存在であることがご理解頂けると思います。

(5) インドを治めているのはカーストのおかげ?
中国13億の民を治めているのが共産党であるとすれば、インド10億の民を治めているのは「カースト制度」のおかげであるという見方があります。
カースト制度とは一種の「あきらめの考え方」を人々に植え付けているものであり、そのおかげでこれだけの貧富の大きさにも大きな社会的な混乱を引き起こすことなくこの大国が治まっているということがいえると思います。

しかしながら、IT産業を中心に上記のような分業制は崩れつつあり、ゆっくりではありますが、カースト制度が変わりつつあるということもいえると思います。
また、そのことと関連致しますが、この国でのイスラム教徒の比率は公式には12−13%といわれておりますが、実際には20%を超えているという説もあります。つまり、カーストの低い人たちが、ヒンズー教からイスラム教に改宗していることと、イスラム社会の出産率の高さが原因だと思います。
尚、あまり知られておりませんが、インドにはイスラムの休日もクリスマス休暇もあります。その点でも非常にflexibilityに富んだ国であるといえます。
尚、既にお気づきになった方々も多いと思いますが、インドのイスラム教徒の数は、インドネシアに次いで世界第2位であります。

(6) 百聞は一見にしかず
弊社の東京にもお取引先にも同じことを垂オ上げておりますが、インドをまずは見てから、ものごとを判断してほしいということです。インドほど日本人から誤解されている国も珍しいと思います。
私事で恐縮ですが、私は入社以来約30年になりますが、その間に、New YorkとLondonという世界を代浮キる大都市に駐在してきました。
昨年の3月にデリー駐在の話をもらい、多くの友人に電話で3回目の海外駐在の辞令が発令されたことを連絡しました。その際に、電話の向こう側の友人たちは、「次はどこなの?」とはかったように聞いてきます。「インドのデリーだよ」といいますと、3-5秒くらいの沈黙がありました。相手はどうやって私をなぐさめようかとアタマをフル回転でめぐらせているわけです。そのくらいに「同情」される場所であるようです。
しかしながら、実際に住んでみますと、「住めば都」という以上の所だと思っております。
実は、私は昨年の4月6日にデリー空港に到着するまで、インドという国には全く来たことがありませんでした。それでも、その後の1年半の間に完全にインドファンになってしまいました。

仕事柄、社内外の多くの日本からの来訪者をアテンドさせていただいておりますが、その多くの方々が、「インドはすごいね。これならもっと早く来るんだった。」といってくださいます。やはりインドの新しい息吹を感じてお帰りいただく方々が非常に多いです。

(7) BRIC\'sの中でもインド一番
一昨年、ゴールドマンサックスがBRIC\'sという言葉を作ってくれて、これからの世界経済を牽引していくのは、ブラジル・ロシア・インド・中国の4カ国であると発浮オました。この言葉が一般に良く使われるようになったのはここ1年くらいのことだと思います。
それと時を同じくして、インドの真の意味での勃興が始まったといっても過言ではありませんし、日本のインドへの注目度もぐんぐん上昇していったわけです。
この夏には、川口外務大臣・茂木IT担当大臣・中川経済産業大臣という現役の3閣僚が相次いでインドを訪問され、その他に閣僚経験者などを入れれば、空前の政治家訪問ラッシュでした。中でも古賀元幹事長と中川経済産業大臣の一行には経済界からも多くのBIG SHOTSが同行されました。
政界・官界・経済界を問わず、日本では上層部が関心を示せば、下もfollowするのが常であります。という点からも、これらの大物政治家のインド訪問ラッシュは日印関係の将来を非常に明るくする契機となったと信じております。

また、他の3カ国と比較しましても、日本にとってのインドの重要度は圧倒的だと理解しております。
ブラジルは日本から遠すぎます。ロシアは、一部シベリヤなどで極東と接する部分はあるものの、やはり欧州の国であります。中国は既に経済発展を遂げつつありますが、早晩一人っ子政策のつけがまわってきます。
となると、日本にとってのインドの存在は単に中国とのバランス上といった受身的な考えではなく、主体的に重要度を増してくる存在になると思っております。

(8) 10億の民を治めているのは1万人?
当地に駐在した途端に、前任者から多くのインド人のパーティーに連れて行かれました。その後も、できるだけご招待は受けるようにして、インド人のよんでくれる会には出席するようにしております。
その席でお会いする方々の多くが本当によく重なっております。「彼は僕の親戚」とか「あの人は僕と学校の同級生」といった言葉をたくさん聞きます。
カースト制度に支えられた一部の人たちが支配する社会国「になっていることを肌で感じることが非常に多いです。少しずつは変わってきているのでしょうが、日本のような本当の意味で開かれた社会になるのには、まだまだ多くの時間がかかるものと思っています。

(9) うさぎとかめ? 
最後になりましたが、中国の現在の発展とインドのそれをうさぎとかめのお話に例えては、中国に怒られてしまうでしょうか?
既に述べさせていただきました、インドの政治的な安定性は、共産党の一党独裁と彼の国の歴史を振り返りますと、非常に不安定なものに見えてまいります。
榎大使がよくいわれる言葉の中に私が感銘を受けているものが多くありますが、その内の一つをご披露して、私の拙いスピーチの結びの言葉としたいと思います。
「インドは決して10%を超える経済成長をする国ではなく、また、10%を超える成長をしてもいけない国である。」
この言葉に、インドがじっくりとかめのようにのろい動きかもしれませんが、確実に歩を進めていく姿がよく出ていると思っております。大いなるインドファンの一人として、いつの日か「うさぎとかめ」の競争結果が実現することを祈っております。

皆様の御静聴に感謝垂オ上げます。有難うございました。                                    

                                   (以上)

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